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MRIによる血流速度および血管形状の適切な評価手法の確立
−Phase Contrast法、Time of Flight法を用いて− |
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血管疾病には、せん断応力に対する内皮細胞の挙動と血管壁内に生じる応力が重要な役割を果たしていると考えられている。従って、せん断応力と直接関係する流速分布、同様に壁内応力に関係する血管形状は、血管疾病を理解する上で不可欠な要素であると考えられる。
phase contrast法は、流速を非侵襲的に計測するためのMRIイメージングシーケンスである。Phase
contrast法において取得される信号の位相は、流速と比例する。位相180°に対応する流速は速度エンコード(VENC)と呼ばれる(V=VENC*f/180.
(V, velocity;f,phase))。現在に至るまで、計測精度の検証について、数多くの研究が行われてきた[1]-[5]。これらの研究の大部分では、計測点における流速および加速度と精度の関連について検証されている。これらの研究の傾向は、位相分散が計測精度に影響を与えることが強く関係していると考えられる。
一方で、phase contrast法は元来gradient echo法を基礎とする手法であるため、信号値は、TR,
TEに代表されるシーケンスパラメータや緩和時間に影響される。信号値に影響するこれらのパラメータが位相に与える影響、即ち、速度の計測精度に与える影響は、十分に検証されてきたとは言えない。血管形状評価に用いられる代表的なシーケンスはtime
of flight法である。Time of flight法では、スライスに垂直な方向の流速の信号が高くなる(Inflow
effect)。この性質を利用して、流速の大まかな傾向を得ることができる。しかし、あくまでも流入に伴う信号強調に基づいた流速評価なので、phase
contrast法の様に、具体的な流速計測を行っている訳ではない。
従って、time of flight法によって得られる画像の血管形状領域認識は、その画像の印象によって決定されていると考えられる。しかし、印象に基づいた形状評価は、対象が複雑になる程困難になる。更に、得られた形状の結果に基づいて力学的なシミュレーションを行うことを考えた場合、領域認識手法の正誤率等が定量的に評価されていることは重要である。
phase contrast法を用い、流速という定量的なパラメータによって静止領域と動作領域を判別することが可能になれば、その正誤についても定量的に評価ができると考えられる。そのためには、phase
contrast法における位相の特性評価が不可欠である。
そこで、本研究では、phase
contrast法におけるシーケンスパラメータおよび緩和時間が位相に与える影響について調査した。具体的に行った評価は以下の通りである:(1)流速計測値に与える影響の評価(位相分散の影響が少ないと考えられる流速最大値の点において評価)[6],[7](2)速度分布形状に与える影響の評価[8],[9](3)静止領域における位相特性の評価[7],[8]。また、time
of flight法を下肢に適用し、表在・深部静脈における
血流速度傾向を評価した[10]。その結果、シーケンスパラメータや緩和時間が変化するだけでも、位相が変化することが示された。更に、その結果から得られる流速分布の形状は、これらのパラメータの変化に影響されることが示された。また、静止領域における位相特性は、その領域における位相の平均値ではなく、標準偏差に現れることが示された。静止領域における位相特性を利用して、膝窩動脈を抽出することができた[7]。また、time
of flight法によって、下肢静脈の血流が、個人差がある様子や運動前後で変化する様子が観察することができた。
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[1] |
Ku,
D.N., Biancheri, C.N., Pettigrew R.I., Peifer,
J.W., Markou, C.P. and Engels H., Evaluation
of magnetic resonance velocimetry for steady
flow, Transactions of the American Society
of Mechanical Engineers, Journal of Biomechanical
Engineering, 112(1990), 464-472. |
[2]
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Oshinski,
J.N., Ku, D.N., Bohning D.E and Pettigrew,
R.I., Effects of acceleration on the accuracy
of MR phase velocity measurements, Journal
of Magnetic Resonance Imaging, 2(1992), 665-670.
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[3] |
Siegel, J.M., Oshinski,
J.N., Pettigrew, R.I. and Ku, D.N., Comparison
of phantom and computer-simulated MR images
of flow in a convergent geometry: Implications
for improved two-dimensional MR angiography,
Journal of Magnetic Resonance in Imaging,
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[4]
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Steinman,
D.A., Ethier, C.R. and Rutt, B.K., Combined
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complex flows, Journal of Magnetic Resonance
Imaging, 7 (1997), 339-346. |
[5] |
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G.D. and Cameron, I.L., Molecular masking
and unmasking of the paramagnetic effect of
iron on the proton spin-lattice (T1) relaxation
time in blood and blood clots, Magnetic Resonance
Imaging, 4 (1986), 305-310. |
[6] |
Kato, Y. and Himeno,
R, Extraction Method for Blood Vessels, Based
on the Velocity Profile Measured by Phase
Shift Method, 生体力学シミュレーション研究, (2002-8), 201-208.
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[7]
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加藤陽子・姫野龍太郎, MRI画像における血管領域抽出手法構築を目的とした
phase contrast 法の流速計測特性評価, 生体医工学, 41-2
(2003),
115-121. |
[8] |
加藤陽子・姫野龍太郎, phase contrast
法における位相分布特性の検討ム血管形状・流速分布の適切な評価に向けて−, 生体力学シミュレーション研究,
(2003-5), 34-43. |
[9] |
加藤陽子・姫野龍太郎,
Phase Contrast法によるU字管内流速分布の評価法の検討, 生体医工学,
41-4 (2003),
306-313. |
[10] |
Kato, Y. and Himeno,
R, Relationship between the structure and
the velocity profile in the accompanying vein
of the limb, 生体力学シミュレーション研究, (2002-8), 209-212. |
**図番**
第5図 膝窩動脈抽出結果
Fig. 5 Result of the regional extraction of
the popliteal arteries from the image shown
in Fig. 4.
<加藤陽子・姫野龍太郎, MRI画像における血管領域抽出手法構築を目的とした
phase contrast 法の流速計測特性評価, 生体医工学, 41-2 (2003),
115-121.より転載> |
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